アスレティックトレーナー が日常生活やスポーツにおける「健康」と「安全」について書いています

“痛みがない=練習復帰”ではない

  ケガが治ったかどうかの基準として、痛みが無くなるというのは本人にとっては非常に分かりやすい変化です。痛みがない事で動きにくかった状態から動きやすくなるため、すぐに練習に参加できる様な気になってしまいます。
 しかし痛みが無くなる事と損傷部位が完治する事は全くのイコールではありません。今回は痛みだけで練習復帰を決めてはいけない理由をいくつか書いていきたいと思います。
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ケガの種類によって痛みの原因が違う

例として2つのケガを挙げたいと思います。

・腰椎椎間板ヘルニア
 腰の大きなケガに腰椎椎間板ヘルニアというのがあります。腰椎椎間板ヘルニアは背骨にかかるストレスによって背骨の間にある椎間板が潰れてしまい、中身(髄核)が飛び出てしまうという傷害です。飛び出た髄核が後方を通る神経に当たってしまうため、腰の痛みや下肢の痺れなどが症状として出てしまいます。この様な場合は痛みが原因で動きが制限されるため、痛みがなくなれば練習をする事は可能になります。しかし、脊柱にかかる負担を少しでも軽減できる様なトレーニングを行う必要があります。

・ハムストリングスの肉離れ
 ハムストリングスの肉離れは急激なダッシュを行った際や力を入れているときに無理やり伸ばされた場合などに筋肉が損傷してしまうケガです。筋肉が損傷してしまうので、重症であるほど痛みが強く治癒期間を長くなります。肉離れの重症度は 度〜Ⅲ度まであり、MRIを撮影する事で判断することが出来ます。
 肉離れの様に筋肉の損傷が原因で動きの制限と痛みがある場合は、痛みが無くなる事と損傷部位が完治する事は同じでは無いため、痛みが無いだけで練習参加を許可する事は出来ません。皮膚の擦り傷を思い浮かべてみると、痛みが無くなっても傷口自体はまだ修復過程にあるというのがイメージしやすいと思います。
 よってMRIなどによる損傷部位の修復度合いの確認と筋力や柔軟性などの筋肉自体の機能が回復しているかがなどが復帰の基準になる訳です。
 この様にケガの種類によって痛みの原因が違い、練習復帰の判断も変わってくるのです。

痛みは曖昧なもの

 人の感じている“痛み”は様々な要素の影響で、強くも弱くもなります。蚊に刺されたとしましょう。蚊に刺されると刺された場所が赤く腫れて痒みを感じます。この痒みも痛み(疼痛)の一つです。この刺された場所を爪で強く抑えると、一次的に痒みがおさまったりします。これは痒いというレベルの痛みより強い痛みを与えた事で痛みを感じる閾値(ハードルの様なもの)が高くなり、痒みを感じなくなるという現象です。
スポーツ中にはアドレナリンが出る事で痛みを感じにくくなるという現象も起きたり、逆に恐怖心等で痛みを強く感じたりする場合もあります。
この様に痛みの感じ方は外からの刺激や体内で出るホルモンなどの影響で変わってしまいます。よって痛みが無くなるタイミングとケガが完治するタイミングが常に同じとは限らないのです。

まとめ

今回はケガの痛みについて書きました。痛みがあるけど軽くなら動けてしまう肉離れなどは、患部の痛みが無くなったり軽くなった段階で自己判断で練習に戻ってしまうケースが多くあります。損傷部位が完全に修復されていない段階で練習に戻ってしまうと、再発や他の部位をケガしてしまう危険性が非常に高くなります。痛みの強さなどで重症度を自分で判断するのではなく、整形外科を受診して適切な診断とリハビリを行ってから競技復帰して欲しいと思います。
整骨院などの治療院の先生方にも、こういった患者さんが来院された際には整形外科の受診を強く勧めて頂くことをお願いいたします。 

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