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ハムストリング肉離れのリスクを上げる要因とは?

ハムストリング(もも裏の筋肉)は肉離れの多い筋肉の1つで、深刻なものは手術が必要になるケガです。

特に陸上競技や球技などで、ダッシュや切り返しなどの動作をした際に起きるケースが多くなります。

頻繁に発生するケガだけあって、多くの研究者がその発生メカニズムや原因について調査しています。

このハムストリング肉離れのリスクファクターについてまとめた論文が、最近イギリスで発表されたので読んでみました。

日頃は論文にあまり関わりが無い方に向けて、簡単にシェアしたいと思います。

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今回の引用論文

今回読んだのはイギリスのBritish Journal of Sports Medicine にて発表された、こちら↓の論文です。

Green B, et al. Recalibrating the risk of hamstring strain injury (HSI) : A 2020 systematic review and meta-analysis of risk factors for index and recurrent hamstring strain injury in sport. Br J Sport Med 2020;0:1-10.

(中身をしっかり読みたい方はリンク先から無料でPDFをダウンロードできます)

この論文はシステマティックレビューとメタ分析という手法を用いた研究になっており、ハムストリング肉離れのリスクファクターに関係する78件の論文について分析を行っています。

論文は研究方法によって科学的根拠の強さが違うのですが、今回の2つは科学的根拠が非常に強い方法になります。

 

結論としては

  • 加齢と既往歴(ハムストリング肉離れ、前十字靭帯損傷、ふくらはぎ肉離れ)は、その後のハムストリング肉離れのリスク増加と関連している
  • 競技特性と試合、ハムストリング筋力、ランニングに関する情報は、選手のハムストリング肉離れリスクを評価する上で重要である
  • 臨床評価の結果はハムストリング肉離れの再受傷リスクを評価するのに優れている
  • 今後の研究では、リスク因子間での相互作用、及びシーズン間などの時間経過による数値の変動を考慮した研究を検討しなければいけない

という形でまとめられています。

「競技特性と試合」とは、論文中では競技ごとのポジションや試合頻度がリスクに関連しているという内容です。

「ランニング」はランニング量やスプリント量、ランニングフォームなどの「走る」に関わる指標の事を指しています。

3番目の「臨床評価」とは筋力や関節可動域テスト、圧痛などの医師や理学療法士、トレーナーが行う評価の事です。

これらのリスクファクターの中には変えられる物と変えられない物があり、論文中でもその様な分け方で説明がされています。

内容について考える

論文内で触れられている要素が多いので、

分かりやすい内容に絞って読み取れた事を書いていきたいと思います。

変えられないものはカバーする

まず修正できないリスクファクターとして以下の2つが挙げられています。

・年齢(加齢)
・既往歴(ハムストリング肉離れ、前十字靭帯損傷、ふくらはぎ肉離れ)

 

加齢や既往による身体への影響は少なからず出ますし、競技歴が長くなるればケガの確率も増えます。

20代までケガをした事がない競技者は少数だと思います。

ハムストリング肉離れの既往があるだけでリスクが2.7倍、特に受傷した同シーズンの再受傷リスクは大きく上がる(≒5倍)という結果が出ており、筋損傷による筋機能の低下が次のハムストリング肉離れのリスクを増加させているともされています。

競技者としての経歴が長くなれば(特に20代後半以降)、それに伴って肉離れの受傷リスクは上がり、再受傷のリスクも上がる事になります。

 

「ふくらはぎの肉離れ」と「前十字靭帯損傷」がハムストリング肉離れのリスクを上げているという結果も、トレーナーとして見過ごせないポイントです。

特に学生スポーツではリハビリが不十分なまま練習に戻ってしまう選手が多いと感じています。

再受傷リスクを下げるためには医師・理学療法士・トレーナーが行うアナログな評価も重要だと示されいるので、

復帰の過程を指導者と専門家がフォローしていく必要があります。

 

年齢や既往はどうしようもないので、

機能低下をカバーするトレーニングやリハビリが重要という事ですね。

 

やっぱり機能向上とコンディショニングは大切

改善できる原因を考えた時に、1番最初に上がるのが筋力や柔軟性だと思います。
現に筋力や柔軟性との関係を調べた論文の数は非常に多くなっています。
今回の論文では大きく以下の2つが挙げられています。
・筋力と柔軟性
・ランニング量(特にハイスピード)

筋力と柔軟性

基礎筋力(持久力・最大筋力)と柔軟性が低いと肉離れを起こしやすいという結論になっています。
最大筋力は収縮の仕方別(縮みながら・伸ばされながら)に測定されていましたが、これは機械が無いと測定は困難です。
現場ではレッグカールなどのトレーニング種目の重量等から推測するしか無いところです。
筋持久力は測定方法の1つとして「片足のハムストリングブリッジの回数」の論文が採用されています。
引用元の図では支えている脚の膝はもう少し伸びており、台は60cmに設定されていました。
ケガをした群の回数が「20.3回」なので、21回以上できるかどうかラインでしょうか?(差が出たのは右足のみ)
自重でのトレーニングとしても良いと思います。
なので、筋力測定を元にしっかりトレーニングを行い、柔軟性は維持していくという点は変わらず重要です。
ここは「年齢と既往歴」で出てきた機能低下ともリンクしてくる部分です!
パワーに関しては「片足幅跳びの距離」が測定しやすい項目として関係性が示されていました
シーズン前のフィジカルテストの1つとして取り入れて、傷害リスクの把握に使うのも良いかもしれません。
筋力測定や幅跳びなどの身体能力を測るテストは、能力を見るだけではなくコンディションを把握するツールにもなります。
シーズン最初だけでなく定期的に計測する事で年間での推移を見る事が大切です。

 

ランニング量

ランニング量が増えるとリスクが増加して行く訳ですが、特にハイスピードでのランニング量が急激に増えた時(直近7〜14日)にリスクが高くなるという結果が示されています。
練習強度や試合数を増やした時には注意が必要です。
GPSを用いて選手の走行距離やスプリント回数のデータを測定しているプロチームや強豪校が増えている背景には、傷害予防やコンディション管理があります。
高価なGPSほど正確でなくても良いので、何らかの形でランニング量や練習量のモニタリングとコントロールを行う事がケガのリスクを下げることに繋がります。

まとめ

過去の論文をまとめた論文なので、新発見があったという程では無いですが面白い論文だったと思います。

特に既往歴と受傷リスクの関係は選手の予防やリハビリへの動機付けとしては、とても良い情報だと思います。

そして既往歴のある選手は、常に再受傷のリスクを抱えているという意識を持ってトレーニングやコンディショニングをしなければいけないという事が再確認できる内容でした。

競技指導者の皆さんもこういった情報を元に、選手の傷害予防に気を配って頂ければと思います。

 

ケガをして欲しく無いという思いから少し長くなってしまいましたが、最後まで読んで頂きありがとうございます。

また、解釈の間違いや不備があればご指摘いただければ幸いです。

Image by Ben Kerckx from Pixabay.

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